私は、細い細い道を歩いていた。 私の左右には、雲が経ち込めている。 道は曲りくねっており、どこまでも続いていた。 それは、天上の道だった。 白一色の世界に私はいたのだった。 道は進むにしたがって、段々と細くなってゆくのだった。 欄干があるわけでもなく、ただ道だけが空の上で延々と続いているのだった。 そして雲の隙間を覗き込むと、遥か下方に下界がぼんやりと見て取れた。 私の足は竦み、下界へと吸い込まれてゆく恐怖と闘いながら、一歩ずつ確かめるように進んでいった。 道の幅は1メートル程まで細くなってきていた。 少し風が吹いているようだ。 雲が、道を塞ぎ前方の視界が利かなくなる。 私は、全身に悪寒が走り思わずその場に座り込んで雲が途切れるのを待った。 そして前方がうっすらと見え出すと、赤子がハイハイをするように、這い蹲りながら前方へと進んだ。 「ここから落ちると、お前は地獄へ行くことになる。」 どこからともなく、頭蓋の奥深くでそんな声が聴こえた。 その声は、野太く慇懃な響きを伴っていた。 どうやら私は、今「天国への道」を進んでいるようだった。 下方をそっと覗き込んでみた。 その瞬間、恐怖の余り手足から力が抜け気を失いそうになった。 間違いなく私は、雲の道を進んでいたのが確信できた。 しかし、 何故、こんな空の上に道があり、自分がその道を歩いているのか理解できなかった。 理解は出来なかったが、以前に何回もこの道を歩いた記憶が、体の奥深くに刻まれている。 そのことだけは解っていた・・・・ しばらく行くと太鼓橋があった。 それは、年代物の橋だった。 昔、弁慶と義経が出会ったような、そんな歴史を彷彿とさせる風情のある橋だった。 そこを通り過ぎると道の分岐点に到達した。 と同時に、周囲が色彩を失った。 突然モノクロの世界に変わったのだ。 真っ直ぐに伸びた道と、左に放物線を描くように曲がってゆく道。 一体、どちらの道を選択すれば良いのだろうか? 誰も教えてくれる者はなく、私は途方に暮れた。 |