●降誕(新しき命の降誕の為のエチュード)
■我々は死ぬとどうなるのか?
まず我々の体は、透明な繭(シャボン玉や風船に似ている)に全身を包まれる。それは弾性があり、外に出ようともがいても出ることが出来ない意外と強靭な素材で出来ている。謂わば一種の生き物のような存在だ。それにすっぽり包まれてしまう。
(参考までにこの作品のモデルは筆者であり、残念ながらまだ死者ではない。)この状態で死者は逢いたいと念じた者に即座に逢いに行くことが可能だ。死者を縛るものは何もない。
余りの自由さに本人が驚くほどだ。時空から解放された自由さと言っても良い。
しかし普通の人間には、死者の訪れは分からない。その為、死者は訪れた何らかの痕跡を残そうとする。自分が逢いに来たことを何とかして知らせたいのだ。それは音であることが多いが、中には昆虫に身を寄せることもある。
友人の体の周囲を纏わりつくように何度も円を描いて蝶が飛んでいたなどという報告もある。
■続いて起きることは魂の上昇だ。
魂は上空の光に向ってまっしぐらに上昇する。それは瞬間に過ぎないのだが、とても長い時間に感じられる。
その時、死者はこの世での出来事を心の中に蘇らせている。反芻してゆくのだ。
■そのトンネルを抜けて暗闇で途方に暮れていると、ゆっくりと魂が近寄ってくる。それは親族の魂だ。
「よく来たね。待っていたよ。」
魂は優しく語り掛けるだろう。そして友人たちがどこからともなく集まってくる。
みんなその場所で生きていたのだ。
心弾む今はなき友人達との会話。
楽しいひと時を過ごすことだろう。
■次にあの世の門を潜らなければならない。
そこには門番が立っている。
そしてあなたの素性を確認する。
しかる後に、あなたは中へと入ることを許される。
■その中で、あなたの今までの人生の全てが緑色の水晶の中に映し出される。
既に本人が忘れてしまった記憶が全て蘇るのだ。いたたまれなくなって号泣する霊や発狂したように荒れ狂う霊もいる。
そこで裁判の判決の如く、審判が下されるのだ。
地獄へ落とされる者、天国へと上昇する者、再びこの世へと生まれ変わって戻される者。
大抵の人間は、この世での修行が未熟である為、再び生まれ変わらなくてはならない宿命にある。

■続いて魂は広大な宇宙へ投げ出される。そこでは、美しい音色が鳴り響いており、これは星の霊体が醸し出すシンフォニーであることを知り驚かされる。
■その後、霊はあの世の太陽とも呼ぶべき存在に吸い込まれてゆく。
そこで自らの記憶を全て焼き尽くすのだ。



新しい降誕の為に。
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