「桃太郎伝説」






とある秋の休日、太郎と花子は渓流に釣りに行きました。
お目当ては、ニジマスと鮎。
釣った魚を、その場で調理していただくのです。
塩をたっぷり振り串刺しにして、焼いて食べるのですが、すっぱい梅干の入ったおにぎりと一緒に食べると滅茶苦茶美味しいのです。
よく洗い落とさなくては、魚の臭みが抜けないのですが、これがまた自然の味わいで、オツなのです。
焼き具合が難しく、焦げすぎたりもしますが、これもまた自然ならではの楽しみなのです。
二人は、はりきって餌をつけると、竿を振り下げました。

しかし、この日に限ってどうしたものか、全く釣れません。
そういえば、水かさも普段よりも多かったかもしれません。
その上、数日前の台風の影響でしょうか、水もひどく濁っていました。
最初は、陽気にはしゃでいた二人なのですが、時間が経つにつれて無口になってきました。

「今日はまったく釣れないね・・・」
太郎は眉を八文字にして、情けなく呟きました。
「こういう日にこそ、大物が釣れるんだって。」
プラス思考の花子は、まだ諦めません。
が、昼時間は過ぎ、3時のおやつの時間が来ても、一匹も釣れませんでした。
太郎は竿を置いて、カバンからポテトチップスを取り出し、頬張りだしました。
花子の楽観論も、どうも今日ばかしは通用しないようでした。

その時、花子は川上から何か大きなものが流れてくるのを見つけました。
「どんぶりこ、どんぶりこ、どんぶりこっこ、どんぶりこ。」
それは、身の丈1メートルもあろうかと思える、大きな桃でした。
季節的には、時期遅れの感のある桃でした。

「太郎!見てごらん!あんなに大きな桃が流れてくるよ。」
花子の声に、太郎も振り返りました。
確かに、
「どんぶりこ、どんぶりこ、どんぶりこっこ、どんぶりこ。」
大きな桃が、川を下ってくるのでした。

兎に角、二人はその桃を引き上げることにしました。
流石に大きな桃は、水分を含んでいる為、ひどく重かったのです。
二人は汗だくになって、なんとか岸まで引き上げることが出来ました。
「こんなに大きな桃は、見たことがない。」
二人は、興奮して顔を紅潮させました。
「いったい、どこから流れてきたんだろうか?」
「きっと先日の雨で、流されてきたんだわ。」
花子が答えました。

傷が至る所についていて、腐ってはいましたが、ひょっとすると食べれるかもしれない。
二人は、切って中を確かめることにしました。
食べられる所だけでも、食べようと考えたのです。

花子がナイフを突き刺したとき、

「ばーーーーーん!」

突然、桃が真っ二つに割れました。
そして、中からよぼよぼになった桃太郎が現れたのでした!

「おぎゃ〜〜〜〜っ!我こそは、桃から生まれた桃太郎!」
そう雄たけびをあげると、よぼよぼの桃太郎は、しゃがみこみました。
「ぜいぜい・・・」
そして、ぽつりと呟きました。
「もっと早く、見つけてほしかったワイ。」
「誰もわしを見付けてくれなくて、桃の中ですっかり年老いてしまったわ。とほほほ。」







その後、太郎と花子は、この老人の介護に奔走させられたのでした。






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