「映像はもはや言葉の層絵ではない。構造的に言って、言葉こそ映像に寄生するのだ。」
            ロラン・バルト「第三の意味」より


●言葉を刺し殺せ!君の言葉は、本当に血を流しているのか?











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■廃墟■


夢の中で私が訪れた場所は、荒涼とした廃墟の世界であった。
しかもそこは、地球上には存在しない建造物で埋め尽くされていた。
ただその都市が廃墟であることだけは、明瞭に汲み取ることが出来た。
なぜなら、そこには生命の揺らぎというものが微塵も感じられなかったし、その荒廃した様子から、想像を絶する年代を経ていることが、容易に想像出来たからだ。
その建造物が誰の手で造られたものか、そして何故故に廃墟となってしまったのか?私には、皆目見当がつかなかった。
つく筈も無かった・・・・
私は、ここがどこで、そして何故私がこの場所にいるのか・・・
それさえも分らなかったのだ。そこには、空気は存在した。
しかし無風状態で、太陽は見えなかったが、空が夕焼けに染まっているのが分った。
どこまでもどこまでもガウディの建造物を連想させる天に突き刺さる三角錐で出来た建造物は続いていた。
地には、粉々に散ったガラスの破片が道を埋めていた。
私が一歩進むごとに、それらは足裏で鋭い音を発てた。
かってここには、人間と同じ体躯をした生命体が存在していたようだ。
何故なら、都市には所々に像が建っていた。そして、都市に残された彫刻は、ギリシャ時代の兵士を連想させるいでたちをしていたからだ。加えるならば、その顔は明らかに人間のものと類似していた。
・・・といよりも、人間そのものだったからだ。

私は夢には神秘的な力があると信じている。
その力とは、私達が忘却の彼方へと追いやった記憶の痕跡を、あたかもジグソーパズルを組み合わせていくように、再生する力だ。
しかもその痕跡とは、決して私達が経験したものである必要はない。
それが、遺伝子の中深く刻まれた記憶であることも可能なのだ。
それは、民族の記憶、人類の記憶、はたまた生命体の記憶と呼んでも良いものだ。
今夜、私が見た情景は、きっとそのような類のものに違いないだろう・・・
私の中で芽生えた危機意識が、そのような世界を夢の中で造り上げたものかもしれないし、実際にそのような世界が、宇宙の中に存在しているのかもしれない・・・

ひとつの文明が滅びるには、瞬時で足りる。
現在、私達は核兵器、大量破壊兵器を始めとした様々な武器を手にしている。
そしてアメリカは、イラク戦争に於いても、劣化ウランを武器に使用している。
これらが、イラク国民の遺伝子に与える悪影響、環境に与える悪影響、どれ位地球破壊を推し進めてしまったのか・・・・
それは、想像も出来ない位だ。
現在の地球規模での異常気象も、この戦争の影響を多かれ少なかれ蒙っていることは疑いも無い。
地は国境によって遮られていても、海も空も陸もひとつの地球なのだ。
地球がひとつの生き物だとしたら、どうだろう?
もし人間が、足に大怪我を負えば、体全体の機能を損ねるのだ。それほど、体とは一体のものなのだ。一部の損失が、全体を損ねるのだ。
今回の戦争は、私達とは関係が無い世界の出来事。
そう考えている人も少なくないかもしれない。
しかし、実際には大いに関係があるのだ。
あなたが今回の戦争で失ったものは、片足どころの騒ぎでないかもしれないのだ。
もっともっと重要なものを失ったのかもしれない・・・
もしかすると今回の戦争で、地球の寿命自体が、急速に縮まったかもしれないのだ。
瀕死の重傷を負った地球・・・・

今回私が見た夢・・・・
その中に生命体は存在しなかった・・・
そこには、ただひとつとして生命体は存在しない・・・・
それは生命体の記憶だけを痕跡として残した・・・・

完全なる死の空間だったのだのだ。








●『黄泉からの訪問者』


もし、「あなたの死亡通知をお届けに参りました。」
黄泉の国からの使者が、深夜、君の目の前に現れたとしたら・・・
きっと君は仰天するに違いない。

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●いつも玄関の周囲を色とりどりの花で飾っていた家が、花が枯れたまま放置されていた。
長い髪の痩せ型の若奥さんは、以前テレビでも活躍していたことがあるという。
そのせいか、着こなしもモダンで、表情にも仕草にも、どことなく洗練された特有のムードが漂っていた。
奥さんは、ガーディニングに夢中で、道行く我々の目を、季節の花で飾って楽しませてくれていた。
しかし、
その花が何日も水も与えられずに、萎びてしまい、やがて完全に枯れてしまった。
家の中にも、人気がまるで感じられなかった。
一体、この奥さんに何が起きたのか?
我々には知る由もなかった。
ただ、枯れ果てて根だけを残した植木蜂が、いくつも玄関の周囲に並べられていた。

その後、東京湾で両足を天に突き出した女性の死体が発見された。
その全裸の死体には重石が巻きつけられ、かろうじて大きく開かれた脚だけが、水面から顔を覗かせていたのだ。
腐乱状態は凄まじく、引き上げた時、その死体は「ぼろぼろ」と花が枯れたように崩れ落ちたのだった。
それが、あの若奥さんだと知った時の驚きは表現のしようがない。


●こんな馬鹿な話があって良いものだろうか?
男は、スーパーで特売の卵を買ってきた。
即席ラーメンに湯を注ぎ、男は卵を割ってその上に載せた。
「さあ、食べよう。」
「ん!?」
よく見ると、その卵の黄身が尋常ではない。
既に孵化する寸前の卵だったのか?
それにしても、どこかがおかしい。
何か、不気味な印象が漂っているのだ。
どうも変な形をしているぞ。
男は、眼鏡を机の上から取り出して、それを掛けてもう一度確かめてみた。
男はそれを見て、息を呑んだ。
なんと、そこには鳥ではなく人間の赤ん坊の形のものが横たわっていたのだった。


●その夜、男は飲みすぎてしまった。
最終電車に乗り遅れ、タクシー代も使い果たしていた。
仕方なく、家までの数キロの距離を男は酔い覚ましに歩いて帰る事にした。
途中、暗がりの淋しい農道を歩くのが近道だった為、そこを通ることにした。
男が、月明かりに照らされた淋しい道を歩いていると、「ひたひたひた」
後方から足音が響いてくる。
時計を見ると、既に2時を回っている。
「こんな時間に変だな?」
男は、後ろを振り返った。
すると10メートル程、後方に巨体の男が歩いている。
「奴も最終電車に乗り遅れたのかな?」
男は、気にも留めず家路を急いだ。
しかし、後方の足音は、段々男との距離を縮めていた。
男は少し不安になった。
「ひたひたひた」
足音は、男のすぐ後方にまで近寄っていたのだ。
「追いはぎか?」
男は怖くなって歩く速度を高めた。
しかし、
「ひたひたひた」
後方の足音も速度を速めた様子だ。
男は恐怖の余り走り出していた。
どこまで走っただろうか・・・・
既に後方の足音が止んだ時点で、後ろを振り返った。
「良かった・・・誰もいない。」
男は、安心した。
しかし、
目には何も見えないのだが、何かの気配がする。
「変だなぁ・・・?」
もう一度、男は後ろを振り返った。
そこには、暗がりの中、長閑な田園の風景が広がっていた。
その時だった。
踝の辺りに何か生暖かいものが触れた。
「ぎょっ!」
下を見た男は、仰天した。
そこには、体長30センチ程の巨大な蝦蟇蛙が、両腕で男の踝にしがみ付いていたのだった。











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