■なめんなよぉ!■

「芸術的な造形行為は、悪魔払いのプロセスで、またその作用においては呪術的である。」
              フーゴ・パル「時代からの逃走」より



今日、渋谷で写真を撮っていたら、強面のお兄さん達に、「こら!おっさん!誰に断って写真撮ってるんだ!」
とすごまれたので、
「お前達のことなんか、撮っちゃいねぇよ。うぬぼれんじゃねぇ!」
と怒鳴り返してやった。
すると、兄貴分らしい奴が、
「こらっ!なめんじゃねぇぞ!」
と顔を紅潮させて近寄ってきた。
そこで、僕は
「お前!誰に向かって口訊いてるんだ!」
と震えながら大声をあげた。
すると、その中の一人が、
「兄貴!兄貴じゃねぇすか!?」
と声を張り上げた。
どうやら僕のことを兄貴と勘違いしたらしかった。
僕も調子に乗って、兄貴になりきることにした。
「お前達、あまり人様に迷惑かけるんじゃねぇぞ!」
すると、彼らが一斉に
「なんだと!」
と怒鳴った。
僕は、ぶるぶる震えながら・・・
「まあ、今日のところは勘弁してやるよ。」
とその場を立ち去ろうとした。

すると、背後から「むんず」と肩をつかまれた。
びっくりして後ろを振り向くと、2メートル近い身長のプロレスラーのような男が立っていた。
その男が、僕を見下すように「にっ!」と笑った。






「ひぇえぇぇぇ・・・・!」


「☆なめんなよぉ!☆、おい、おっさん。」






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「精神は根気強く堂々めぐりをしなければ、前へ進むことはできない。」
             E.M.シオラン「悪しき造物主」より



●殺っちまえ!






へっ!?
上の写真かい?
あれは、スミスがジェームスのことを殺っちまった時のもんだ。
訳だって?
たわいも無いことよ。
スミスの女のひとりにジェームスが手を出したということが原因よ。
俺らは、スミスは切れると何をしでかすかわからねぇぞ!
そうジェームスには忠告してあったんだ。
しかし、ジェームスの奴は、俺の忠告を無視した。
惚れちまったんだ、女によ。
たいして美人じゃねぇ、
どこにでも転がっているあばずれ女よ。
しかしよ・・・
あの女・・・
ジェームスには、いつも女らしい素直な面を見せていたな・・・
俺らと付き合うと事は、まるでちがっていたっけ・・
女もジェームスに惚れていたのかもしれねぇなぁ・・・
ジェームスは、よく女の悩み事を聴いていたようだったしな。
そうこうしているうちに、同情しちまったのかもしんねぇな・・

ジェームスって奴は、よく出来た奴だったぜ。
俺は、奴が怒った姿なんざ、見たこともねぇ。
いつも物静かで、考え事をしているような奴だった。
奴の目は清んでいて、まるで深い森の湖のようだった・・・
奴の声は、朝方の森で響き渡る小鳥の囀りのようだった・・・

誰かが困った時には、自分が腹を空かせている時でも、自分の食い物を分け与えていた・・・
俺も博打ですってんてんにやられた時、食い物も手に入れられずに途方に暮れていた時がある・・・
そんな時、ジェームスは、奴の大切にしていたブーツを質入し、俺に金を貸してくれたんだ。
そういやぁ、あの金も借りたままだった・・・
奴も一言もそのことに触れなかった・・・
ジェームスって奴は、そういう奴だったのさ。
俺だけじゃねぇ!
みんなジェームスには多かれ少なかれ世話になっていたんだ。

なのによ・・・
スミスがジェームスを殺る時に、
誰一人として止める奴はいなかった・・・
実際にはよ、スミスは切れてしまうと、
止められるような奴じゃねぇんだが、
・・・・・
それにしても、
俺たちは、その光景を面白がって見ていたんだ。
みんなで囃し立ててな。





みんな飢えていたんだ・・・
面白いことによ。
みんな追いつめられていたんだ・・・
この退屈な日常によ。

だからよぉ、みんな変化を欲していたんだよ。
そんな見世物を欲していたんだ!


・・・・・ジェームスには気の毒なことをしちまったが・・・
どうしようもなかったんだ・・・

ん?
女はどうしたって?
ああ、喧嘩の原因となった女のことか・・・
あいつはよ、狂ったように泣き叫んで、ジェームスの死体を抱きかかえると、
あそこの湖の底へと飛び込んで逝っちまいやがった・・・
死体は、上がらなかった・・・
もう今ごろは魚に食われちまって、骨だけになって、湖の底に沈んでいるんだろうぜ。
ふたりで仲良く並んでな。

でもよぉ、人間って奴は罪な生き物だよなぁ。
逝っちまいやがってから、初めてその人間の偉大さが分るんだ。

悲しいけどよぉ、それが人間の性なのかもしんねぇよ・・・・



そういやぁ、その後、二人で楽しそうに歩いている姿を何人もが目撃しているが・・・
そんなことは、ありゃしねぇ。
他人の空似・・・
もしくは、幻に違いねぇさ。
奴は確実に死んだんだ。
俺たちは、この目でちゃんと確認しているからな。


奴が生きていてくれたなら・・・
もし、奴がここにいてくれたなら・・・

俺もいつもそう思うさ。
きっと、
みんな心の底で、そう考えているにちげぇねぇんだ。
だからよ・・・
そんな亡霊を見やがるんだぜ、きっと・・・




☆殺っちまえ!☆
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